ハッコー 仁科佐保子

 むかし、あるお百姓さんの家に赤んぼうが生まれました。
 嫁さんは大変の器量良しでそのうえ働き者で気立ても良かったのですが、それが母親の気にさわっていました。
そして、息子夫婦が仲良いのを見るにつけ、
「ふん、おらの息子をてなづけて。」
 と、苦々しく思っておりました。
 そのうえ、赤ん坊がかわいくなってくるにつけ、嫁の地位がたかくなったような気がして、いっそうにくさがつのっておりました。
 五月になりました。そろそろ豆まきの用意をしなくてはなりません。豆は連作をきらうといわれていますので、豆をまくには去年のあわ畑を耕やすのです。
「今日からあわ畑を耕やす。お前は川の下のあわ畑へ行け。おら清作と東の畑へ行く。東の畑は三ばいもあるでな。」
 嫁さんは乳のみ子をかかえて、ひとりあわ畑へ出かけました。赤子をつぐらの中に入れ木かげにおいて、鍬で去年のあわのつんつんした切りかぶをおこしはじめました。母と赤ん坊とつぐら
 気がつくと、赤ん坊がつぐらから出て、母を追いながら畑の中をはいまわっています。
「いい子だ、いい子だ。もうちょとつぐらの中に入っていろや。すぐにおわるでな。」
 嫁さんは赤子を抱き上げてはつぐらの中へ入れてあやし、畑をおこしつづけました。
 つぎの日の朝、嫁さんの仕事を見にきた母親は、
「こんなに仕事がおそくてどうするだ。豆まきできるかっちゃ。」
と、いいながら、息子と東の畑へいってしまいました。
 嫁さんは赤子をつぐらの中へ入れましたが、赤子は今日にかぎって、泣きながら母を追い、畑をはいまわるのです。
 嫁さんは、今日のうちに終わらせようと必死になって鍬を使いつづけ、土の上をはう子に、
「母ちゃはここだ、ここだ。こっちへはよこ−。はっこー。はっこー。」と、あやしながら仕事をつづけました。
 しばらくして気がつくと、赤子の泣き声がありません。
 嫁さんは胸さわぎがして、はっと立ち止まり、いそいで赤子をさがしまわりました。
 子供はあわの切りかぶがつんつん立っている中まで母を探しまわったのでしょう。やわらかい腹にきりかぶがつきささり、ぐったりしています。
 嫁さんは狂気のように子供をだき上げると家に向って走りました。
 走って走って家まで来ると、子供はすでに冷たくなっておりました。
ハッコー 「ああ、もう、みんな、なくなってしまった。」
 嫁さんはきっと目をあげると、しっかりとわが子を胸にだいて、ふたたび川の下のあわ畑へもどりました。さっきたがやした一番やわらかい土の上に、わが子をおくと、土にひざまずき、さめざめと泣きくずれました。
 涙は流れてながれて、赤子のしかばねをぬらし、土をぬらし、自分も涙になって消えてしまうほど、泣きつづけました。
 つぎの日の朝、帰らない嫁さんをさがしにきた息子は、あわ畑にカッコーが一羽いるのを見つけました。
 嫁さんは泣いて泣いてカッコ−鳥になってしまったのです。
「ハッコー。ハッコー。」
 親鳥はなくなった赤子を呼びつづけながら、とびたっていきました。
 カッコ−鳥は今でも「ハッコー。ハッコー。」(はやくこい。はやくこい)
と、わが子を呼びつづけています。
 そして、そのあとで「ギャ、ギャ」と鳴くのは、おしゅうとさんへのうらみだということです。
 古海ではカッコー鳥のことをハッコ−鳥と呼んでいるのです。

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