地雷也 山田千里子

 むかしむかし、黒姫山の高沢というところに忍術を使う”地雷也”が住んでおった。その住居は大きな洞窟で二十六畳もあった。
 地雷也は仙術を使う盗賊で、日本国中を荒しまわったあばれ者であったが、なかなか人情のあつい男でもあった。
 上州の妙義山あたりで暴れ廻っていたある日のこと。仙術の恩人である素仙道人が、黒姫山の大蛇に苦しめられていることを風の便りで知った。
「先生を助けなければいけない。」
といって、祈ったとたん、金色の雲が生れたので、地雷也はとくいのガマの仙術で、ガマごと雲に乗って風よりも早く黒姫へと帰ってきた。
「先生を苦しめた大蛇はどこだ。」
 樹海を渡って山の奥まで探し廻ったが、大蛇はなかなか見つからない。すると、一人の美しい娘と老婆がとぼとぼと歩いているのに出会った。
「蛇を見かけなかったかね。」
「いいえ、なにも見ませんでしたね。」
と、老婆が言うと美しい娘もうなずきながら、
「はい、見ませんでした。」
「うむ、そんなはずはないのだが・・・・・なにやら怪しい匂がするぞ。」
 地雷也大蛇 地雷也はじっと二人を見すえて仙術をとなえると、ふしぎやふしぎ、二人は足の先からだんだん蛇の姿になってきた。老婆は家来の蛇に、娘はどんどん大きくなり真っ白な大蛇に。
「にっくき先生の敵おもいしれ!」
 刀をぬいて大蛇にたち向かう地雷也に、ながい舌で火を振りかけるようにして白大蛇がたちむかう。刀が熱くなり目もあいていられない。
「よし、先生に習った秘伝の仙術を使うぞ。どろーん」
 白い煙が出たかと思うや、あらわれたるは、一ぴきのガマ蛙。目はらんらんと輝き、ほおはふくらんで真赤な長い舌をペローリ、ペローリ。しかもだ、ガマの上には地雷也が髪を逆立てて、仙術の巻物をくわえて乗っている。大蛇はありったけのちからをふりしぼり、火をふき背のびをしてとびかかる。「うおっーうおっー。」
 地雷也が、エイッと叫べばガマ蛙の目から光線が走る。大蛇は火をふく。大蛇とガマに乗った地雷也との大勝負。
 天も狂ったのかにわかに暗くなり、風はふきすさび、黒姫山中うおんうおんと鳴り出した。
 大蛇は尾からしだいにしびれだし、ついに家来の蛇は死んでしまった。
 ガマ蛙は大きな口で蛇の死がいをごくんと一のみに。するとどうでしょう、あたり一面、さっと明るくなった。みごとおみごと、大蛇を退治したのだ。
 ガマ蛙の姿も消えて地雷也一人。素仙道人のいる妙高山めざして歩き出したが、どういうわけか道に迷ってしまい、樹海をあちらこちらと歩き廻り苦しんだあげく、高沢の上にある洞窟にたどりついた。さすがの地雷也も大蛇の毒気にあてられてか、体の調子が悪くなり、残念無念とうとう素仙道人とはあうことができなかった。
「先生はどうしているかなー。」
 一人で病に寝ていた地雷也は、毎日仙術を習っていた若いころを思い出していた。と、ある日、夢枕に、「越後と信濃の国境に、夜叉五郎という良民を苦しめる山賊の首領がいるから、ただちに退治せよ。」
と、素仙道人のりんとした声。
「ようーし、みていておくんなせい。」
 地雷也はあらん限りの仙術をつかって夜叉五郎を討ち取り、夜叉五郎の手下はみんな自分の部下にしてしまった。
 地雷也はその後、手下と共に盗賊になったものの、お金や品物など、自分達だけのもの似せず、村人達に恵んでやり、部下達をも可愛がったので、地雷也の気っぷのよさはいまも語り伝えられている。
 地雷也の住んだ大きな洞窟は、いまでは名所の一つになっている。

前ページ 次ページ もくじ