大ガマと大蛇 峯村米子

大むかし、斑尾山に大きなガマがたくさん住んでおった。どのガマもこうらがふけていて、みるも恐ろしい姿をしており、村人からたいへん恐れられていた。
「どうも、あの山へ行くとねむくなる。おめえさんは、そんなことねえかや。」
「やあ、おれもそんなめにあったことがある。聞くところによると、それはな、山に住みついている大ガマが、物かげにかくれていて、人がくるのを待ちぶせている。そしてな、人間の血を遠くの方から吸とるからだとー。おっかねえ話だぜ。」
こんな話が、里のあちこちでつぶやかれ、人々はあまりの恐ろしさにふるえあがった。
しかし、大むかしは、人々は山の恵みなしでは生きていけなかった。山へ入らないわけにはいかなかったんだ。
また、ある別の人がいった。
「なあ、おめさんたち。わしがいいこと教えてやる。それを防ぐにゃ、紙を持っていて顔にあてると、赤い血が紙にバラバラとつく。そんなときゃ、あぶねえからいちもくさんに逃げてこらっしゃい。」
と。村人たちは山へ入るときは、かならず紙を持って登ったそうな。
また、こんな話も伝わっている。
あるとき、この斑尾の大ガマと、山の西がわの眼下に広がる沼池の主の大蛇とが人間の血を吸とる場所のことで大げんかになった。二の沢入のあたりで、大ガマと大蛇の縄張り争いがくりひろげられた。そのものすごい食い合いのために、山は霧でまっくらやみになったという。
やがて霧も晴れたので、村人たちは、おそるおそる山に登っていってみるとなんと、そこにはガマと大蛇の死体がごろごろと重なり合っていた。あたりは血の海となり、草木はふみ荒されて、目をおおうばかりのすざましさであった。
しかし、その争いのあった場所のわきから、きれいな冷たい清水が、こんこんとわき出していた。
この水が、やがて谷となり、川となり、大きな湖になった。清らかな水をまんまんとたたえる野尻湖は、蛇とガマの死闘によって生まれたのだそうな。