
信濃教育会出版部より
作・大島 良朗
さし絵・大島 良朗
むかしむかし、ながいわに、おろくという、かわいいむすめがおったそうな。
きょうも、おろくは、なかよしのおさよんとこへ、あそ
びに行くというので、おっとうは、「山ん中には、てんぐぎつねがでるちゅうで、気いつけるだよ。」と、いつものようにいった。
「だいじょうぶだで。」
おろくは、でっけえこえでこたえると、近道の山ん中をとおって、おさよんちへ行った。
「おさよちゃん、おはよう。」
「おはよう。まってただ。」
ふたりは、おてだましたり、ままごとしたりしてた。そのうちに日がくれかけてきちまった。
おさよとわかれて、山道にへえりかけたときのことだ。あかいべべきたねえちやんが、どこからか出てきて、
「おめ、どこ行くだや。」
と、きいた。ねえちやんがあんまりきれいなんで、おろくは、ぼうっとしちまって、
「おら、うちへけえるだ。」
「おれ、近道しってるで、えべや。」
おろくは、いわれるまんま、あとをついて行った。
おろくのうちでは、でけえさわぎ。村のしょうをたのんで、えれえさがした。が、見つからなんだだ。そのうち、ひとりのわけえしょうが、
「あ、あのてんぐいわにいるのは、おろくでねえか。」
みんなたまげて、てんぐいわの上をみた。
おろくはただぼんやりと、うつむいてつったっていただ。
やっとこさっとこ、いわからおろしてみると、おろくは、ものもいえず、みみもきこえねかった。
それから、いくんちかして、やっともとにもどったそうな。